札幌なかまの杜クリニックへの三度目の訪問。

3日間、札幌なかまの杜クリニックに行ってきました。今回で3回目の訪問になります。
札幌なかまの杜クリニックは、北海道浦河町にある、べてるの家の思想と方法をもとに作られた精神科クリニックで、数年前にNHKのETVで特集が組まれたこともあります。私もそれを見て、新しい組織の在り方を考えるヒントを感じて、足を運ぶようになりました。
ここでは患者(当事者、ないしメンバーと呼びますが)と支援者(スタッフ)が、旧来の精神障害ケアの常識とされるような専門性の壁を作らず、当事者を経験した人もスタッフとして働いたり、独自のケアを実践したりしながら、日々の実践が営まれています。

もちろん、そこにはたくさんの苦労があります。それは障害を抱えたメンバーだけでなく、スタッフにも組織にも当然あります。でも、だからこそ旧来の支援者に依存する患者という依存的な関係ではない、言葉だけではない「なかまと共に回復を目指す」という目標に向けた努力が積み重ねられているのです。その姿に自分は毎回、何かが満たされて帰ります。

また今回もお伺いして色々な苦労がなかまの杜にあることを知りました。でも、きっとみんなで向き合って行くのだろうと思います。
べてるの家の標語に「人生の苦労を取り戻す」という言葉があるのですが、苦労をしないことを目指すのではなく、苦労をすることを「通じて」人生を取り戻すこと、これは決して精神障害を抱える当事者の人だけの問題ではありません。
前回Biz/Zineのコラムで書いた「問題解決のパラドクス」ともつながっていると思われるのですが、組織の問題に対して、苦労を避けようとすることで、かえって様々な問題を抱え込んでしまう人間社会の難しさというものがあるように思うのです。
その中で、この札幌なかまの杜クリニックの実践を見てきて、色々と気が付かされたことがありました。これはいずれ本にでもまとめていけたらと思っています。

世界も、組織も、直接自分の力では変えられないし、もしかしたら変ようと考える必要もないのかもしれません。それに、そもそも、「結果として」世界も組織も変わるものだと思います。だからこそ、結果として変わるようなプロセスが大事だと思うのです。
理想を持ちながらも、大事な今の苦労に向き合うこと、そのこと「こそ」が世界を変えていくのだということなのかなと。そして、その向き合うことが「すでに」世界を変えているのだと気が付きました。

どういう技法か、じゃなくて、僕達がどう問題に向き合うのかというところなんじゃないのか、それはまさに僕達がどういう物語を生きるのかなのでしょう。そしてその物語が変わることが、世界や組織が変わることなのだと。
だから、大事なことは、悩まないための素晴らしい道具や技法じゃなくて、内に篭った悩みを共に考える苦労として、協力して問題に向き合っていける関係を築いていくことなんだと思いました。それは、組織の中だけでもなくて、組織を超えた関係でもそうでしょう。

そのためにどういうことができるのかが、自分の根っこのところの研究テーマだなあと改めて感じた次第です。
自分が研究者として、何をするべきか、原点をもう一度確認する素晴らしい時間でした。年度末にこうした時間を持てて本当に良かったなと思います。

今回も暖かく迎えてくれて、夜遅くまで語り合ったスタッフの皆さん、人生の苦労を教えてくれたメンバーの皆さん本当にありがとうございました。
また会う日を楽しみに、僕もいい苦労をして生きていきます。


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