学生に何を語るべきか

4月から新しい大学に移って仕事をしているのですが、昨日、大学でフリーペーパーを作っているサークルの学生二人から、急遽、フリーペーパー記事用の取材を受けました。
こういうことがあると学生に何を語るのか考える機会になるなあと思いました。

概ね以下のような質問内容だっと記憶しています。
・研究テーマは?
・学生時代にどんなことをしていたのか?
・学生へのメッセージは?

研究テーマは、新しい協働の形がいかに可能か、関係性の視点から考えていると答えました。これについては、追々このブログでも書いていこうと思います。


学生時代にしていたこと、というか、大学時代は基本的にずっと悩んでいました。
目立った活動は特にしていなかったと思うのですが、根暗い大学生活だっと答えました。自分はおかしいと思うことをオープンに議論する関係が良い関係だと思っています。だけれど、自分が大学生になって直面したのは、思ったことを相手の空気や顔色を読んで言わないという、非常にクローズドな関係性でした。最初サークルにも入ったのですが、思ったことを言っていたら、どうもそういう変な空気を感じて居心地が悪くなったのですぐに辞めました。
自分はそこから興味を持ったものに勝手に手を出すようにしました。数学が苦手だったのですが、経済学は面白いなあと思ってスティグリッツのミクロ経済学のテキストを勝手に読んだり、社会学理論を勉強したいと思って社会学部のゼミに参加させてもらったり。でも、こういうことをしていると浮いてしまって、いわゆるどこかに一緒に旅行に行ってワイワイするような友達は皆無でした。
自分は世の中に適応できないダメ人間だと思って、死のうかとすら考え、すっごく悩んでいましたが、今思えば、自分の生き方が間違っていたとは全く思いません。きっと悩みながら、自分が自分になる準備をしていたのだと思うからです。

学生へのメッセージは2つ。
ひとつは、大学と大学生の時間をフル活用することです。
大学には優れた先生はたくさんいるので、学びたいと思った先生からは徹底的に吸収し尽くすこと。それと、大学生活の特徴は、短期的に成果が出ないことに取り組めることです。従って、短期的に成果が出ないことを徹底的に吸収するために、古典を読むように言いました。いわゆる教養を身につけるべき、ということに近いのかもしれませんが、要は、優れた世界観(※)を形成することによって、その後の必要な能力を身につける方向性を身につけるという意味です。

※優れた世界観とは、自分の認識している世界が世界の全てではないということを知ることであろうと私は思っています。

もうひとつのメッセージは、広い世界を知ること、そして、その中で居場所を見つけること、なければ創ることです。うちの大学は国立大学であるせいか、学生に公務員志望者が多いのが特徴です。公務員は素晴らしい仕事で、世の中にとって無くてはならないものです。ですが、社会にとって大事だということと、自分にとって大事だということは違います。だから、自分はなぜそれをしたいのか、ということがもっと大事なのです。
その選択を自分にとって意味あるものにするためには、背後に世の中はどういうもので、その仕事はどういうものなのか、という理解を自分なりに作っていくことが必要だと思います。世の中の理解が狭ければ、その選択の正しさは極めて限定的です。よって、自分の選択の正しさを高めるためには、広い世界を知ることが極めて重要なことだと私は思います。

また、自分にもし居場所がないと感じている人がいたとするならば、過去の自分の大学時代の死ぬほど悩んだ経験に即せば、それは広い世界を知らなかったこと、加えて、当時はインターネットが未熟でそういうことへのアクセスが限定されていたことが挙げられると思います。関係性は人を生かしも殺しもします。だから、自分を生かす関係性の中に身をおくこと、それを見つけること、なければ頑張って創ること、少なくとも、居場所がないならば、今いる世界がこの世界の全てではないことを知っておくことが大事だと私は思います。

「賢い医者は病人に、空気と土地を変えてみては、と転地療法を勧めて、夢と希望を開きます。
今いるこの場所が世界の全てではないとは、なんと素晴らしい勧めでしょう。」

"Walden" Henry David Thoreau
(今泉吉晴訳『ウォールデン』小学館)



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