対話型で講義をやってみる実験

大学では後期が始まった。
前期はサバティカルであったため、感覚が戻らないのだが、その感覚の戻らなさを逆に新鮮な感覚として有効に使いたいと思い、今年は講義の進め方を変えようと試みている。
後期に担当する講義科目(ゼミではなく、教壇に立つ科目)は2つ。そのうちのひとつで実験を試みることにした。

何よりも学生の声がどんなものなのかを探っていくことは大事である。そこで、まず「企業社会に関して、どんな話を聞きたいか。どんなことに関心があるのか。」を聞き出すことにした。配布したカードの裏にそれを書いてもらう。そして、それに翌週応答しながら、講義を進めるという方法である。他にもSNSを使う方法もあるだろうが、まずは形に残る手書きのものでやってみようかなと思っている。なんだその程度の実験かと思われた方もいるだろう。もちろん、やることはその程度のことだ。しかし、ひとつ違うのは、こっちの説明を「正しく理解したのか」の理解度を調べるためにやってるわけじゃないということ。ここはポイントである。
自分としてはこの実験を通じて何かを発見してみたいと思っている。

もっていき方としては、そうした声に応答する中で適切な理論があればそれを教えつつ、「この観点から見るとこの現象はこう説明できるね」というのを実感してもらっていくというやり方を考えている。今までのように学問体系があって、それを事例で説明する、というやり方はやめる。そうではなく、彼らの困り事をスタート地点にして、まさに対話型で講義を創っていこうと思っている。

なぜそうするのか。
理由は、大学の学びを実感してもらいたいからだ。
これは佐藤学さんの受け売りだが、学びと勉強は違う。
学びとは自分が知りたいという欲望を叶えていくプロセスであると思う。一方、勉強は、こちら側が学習すべきことを決定したものをやらせるプロセスである。
でも佐藤学さんの考えによれば、人間の学びは機能的に行われるものだ。つまり、わかりたいと思えば、わかろうと努力して能力は身についていく。これを理解しないとこれができない、というような積み上げ型ではない。学問体系がわからなければいけない、と考えていたのはもしかしたら積み上げ型なのかもしれない。これはまたじっくり考えてみたい。

学生からのカードのコメントは色々な意味で面白い。
質問や意見それ自体が面白いというのもあれば、「ふーん、こんなこと考えてるんだなあ」というような面白さもある。
しばらく続けてみようと思う。

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