規制産業に寄生する記者

とても久々の更新になる。
さて早速だが、今日はなにやらおかしな記事を見つけた。

「ソフトバンク首位獲得は“ケータイ泥沼化”の前兆か?」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20070717/129953/

同記事によると、携帯電話業界に新たに参入したソフトバンクが現在ホワイトプランを導入し、ホワイト家族割などの導入も功を奏して、新規加入者を着実にのばしている。しかし、こうした低価格戦略は、いたずらに携帯電話事業各社の収益性を減少させ、その結果将来の技術革新投資を抑制することにつながり、日本の電気通信産業の発展に悪い影響を及ぼす、という主張である。

私はこの主張はとんでもない誤ったものであると考える。
第一に、携帯電話産業に新規参入する企業があったのは、携帯電話事業が高収益事業であるためであり、競争はユーザーにとって歓迎すべきものであると考えられるためである。
業界内の競争はそれほど激しいものではなかったと考えられる。なぜならば、トップのドコモが半分以上のシェアを持ち、産業の集中度が非常に高いという産業の基本的特徴がある点が第一。第二に、新機種の開発や新規格、コンテンツの開発などの投資は多かったと考えられるものの、価格競争は殆ど行われていなかったと言える点が第二である。そうなると、必然的に収益性は高いものとなる。故に、その高い収益性という余剰を背景に、新規参入業者が競争をしかけるのは無理からぬことである。

第二に、新規技術の開発などの膨大な投資に向ける余剰資金が枯渇することが同記事の中で「懸念事項」として登場し、もっとも重要な主張になっているわけだが、この主張もおかしい。なぜならば、新規技術他の業者がユーザーにとってよりよいサービスを提供することを可能にするために投入するのであればよいのだが、この記事ではあくまでも業界が業界のために進歩することが目的であるように受け取れる。確かに、日本の携帯電話技術の進展は国策上重要かもしれない(とはいえ、KDDIはクァルコムの技術だけれど)。しかしながら、それ以上に考えるべきは、ユーザーにとってのメリットであろう。現在では高い収益性がユーザーに還元されているとは言い難い状況にあり、そこにソフトバンクが新しい戦略で風穴を開けただけのことである。
必要なのはソフトバンクの仕掛けてくる低価格攻勢をどのようにドコモとAUが迎え撃つか、という点にある。ソフトバンクはオペレーターの数をぎりぎりまで減らしたり、請求書を有料化するなど、現在でも低オペレーションコストを狙った活動を行っている。また、端末機種にも国内メーカーだけでなく海外メーカー(ノキア、サムスンなど)を導入している。今後、基地局設置その他インフラ整備に関しても、海外の製品を安く導入するなどの方策が考えられる。いわゆるコストリーダーシップ戦略を今後展開していくはずである。どれだけ貫徹できるかがここからは勝負であろう。一方のドコモやAUがコストリーダーシップ戦略が仮に携帯電話業界で有効に機能する戦略であることが広くユーザーに知れ渡っていく場合、どう対応するか見物である。差別化戦略で高付加価値化を計るのだろうか。比較的ソフトバンクはコストリーダーシップ-集中戦略に近いと考えられるが、そうなると、あえてセグメントを固定化しないコストリーダーシップ戦略に打って出る可能性も否定できない(AUあたり)。

いずれにしても、これからは携帯電話業界にも戦略が問われる時代になっただけであって、決してソフトバンクの参入がなにかデメリットをもたらすわけではない。デメリットをもたらすとしたら、今まで戦略もなく高収益を維持できたぬるま湯的状況が終わるという事実にすぎず、それはユーザーにとってはむしろ歓迎するべきものである。

ここで取り上げた記事は、全くユーザーの視点を欠いたものであったが、こうした記事が取り上げられるというのはなんともおかしな話である。記者は携帯電話を愛しているのか、業界に癒着しているのかなんなのかよく分からないが、案の定この記事の視点のおかしさは、読者の意見のところでも手厳しく非難されている。もう少しメディアも考えて言論を展開してもらいたいものだ。

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