相次ぐTOBに関する報道について(王子製紙と北越製紙&AOKIとフタタ)

少し前になるが、王子製紙が北越製紙に敵対的買収をしかけることが報道された。
この一件に関する一連の報道には大いに不満が残る。
というのは、一体、なぜ王子製紙が北越製紙に買収をしかけているのか、その買収の合理性はどこにあるのか、全くわからないからだ。
大まかに知っている情報と言えば、北越製紙は製紙業界でもそれほど大きな方ではなく、コート紙で成功している企業である、ということくらいである。その情報が得られた唯一の記事がこれ。最後の方にやっと一言出てくる。

FujiSankei Business i. 総合/北越製紙増資で三菱商事 「ホワイトナイト」否定(2006/7/29)

報道に求めたいのは、「誰が何をやった」だの「どっちの方が優勢だ」だのということを繰り返し伝えるのではなく、分析的な内容である。
今の報道だと、そもそも王子製紙が何のために北越製紙を買収しようとしているのか、今ひとつよく分からないままである。「業界の再編」が狙いだ、などとおおざっぱなことを言うが、再編の意味すら十分に伝わってこない。
再編とは、規模を大きくして、調達や生産コストを下げることをねらっていると言うことを意味しているのだろうか?であれば、もう少し規模の大きな他社との合併への動きでも良かったはずである。それにもかかわらず、敢えてニッチ企業を買収しようとする王子製紙の買収意図は、むしろ、昨今の原材料費の高騰を差別化された製品を積極的に開発、獲得することによって、収益率の低下を避けるための差別化戦略の一環なのではないか?
仮にそうだとしたら、王子製紙の商品構成の中で、差別化戦略に適合的な商品は何か、また、そうした体制はどの程度整備されているのか、北越製紙はどうなのか、そもそも王子製紙が抱いている危機感とは何なのか、危機感に対する有効な戦略は何が考え得るか、等々、色々と見るべきポイントがあるはずだ。
なぜこういった点に、殆ど言及されないのか、敢えてやっていないのだとしたら意図が分からないし、意図的でないとしたら能力が足りないのだろうか。

AOKIによるフタタへのTOBに関しては、日経新聞8月9日付け朝刊に比較的よい情報が掲載されていた。(記事名「紳士服、中堅が再編の焦点」)
同記事によると、衣料品業界では売上が一千億円を突破すると、スケールメリットが生じるため、供給業者への価格交渉力が増すとのこと。
アパレル業界とはいえ、プレミアム価格を行使できるブランドではないこれらの企業にとって、調達コストを低く抑えることは、現行の戦略の延長線上で考えれば合理的だ。青山が圧倒的に規模が大きいため、この情報が正しいとすれば、AOKIの買収提案は合理的であると考えられる。
同記事内では、中京地区のトリイや東北地区のゼビオをAOKIが買収しているとの情報も掲載されていたが、それらの企業がAOKIに買収されたことによって、同地区の売上と収益がなぜ、どのように向上したのか、調べてみる意義もあるだろう。なぜならば、ここにフタタ買収の意義が隠されているはずだからだ。

残された疑問点は、なぜ報道される情報が、この二つの買収事例でここまで異なっているのかということだろうか。

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