新規参入4銀行、それぞれの戦略

今日の日経新聞朝刊に、新規参入の4つの銀行(セブン銀行、ソニー銀行、イーバンク銀行、ジャパンネット銀行)の第一四半期業績について、セブン、ソニーは好調の一方で、イーバンク、ジャパンネットの2行は損失が生じていることが報じられた。同記事リンクはこちら(「新規参入行、業績は明暗・4-6月」NIKKEI NET:経済 ニュース)。

この4行の戦略を比較すると面白いことが分かる。
業績好調だったセブン銀行の主な収入源は、同行ATMの提携行・その他金融機関による利用であることが分かる。第一四半期の経常収益(18,093百万円)のうち、ATM利用手数料収入は、17,538百万円であり、経常収益の96%強を占めていることが分かる。つまり、セブン銀行はATMサービスが主軸の戦略であることが分かる。
一方、ソニー銀行を調べてみると、彼等は独自のATMを有していない。これはイーバンク、ジャパンネットも同様である。では、ソニー銀行と他2行との違いはどこにあるのかというと、ソニー銀行は旧来の銀行と同様の業務(預金、融資、投資信託の販売等)を重視しているのに対し、他2行は決済手数料を主な収入源にしている点にある。特にジャパンネットはヤフーとの提携(2006年6月29日)からも、オークション取引やネットショッピングの手数料収入を獲得することを目指しているように見える。
勿論、今回の四半期の業績が悪かっただけでは判断はしにくいが、3行については、この戦略の違いが収益を分けているのかもしれない。
つまり、ソニー銀行にとっての直接的競合は、旧来の店舗を持っている銀行(以後、店舗銀行と呼ぼう)になるだろう。ソニー銀行は、ネット専業とすることによりオペレーションのコストを大幅に下げる一方で、個人向けサービスに特化し、顧客の利便性を図る(例えばユニークなネットバンキングサービス「MoneyKit」の提供)っている。実際預金金利などは魅力的である。これに加えて、収益性の高い住宅ローンなどの融資を積極的に行う。個人向けに特化している銀行ならではのサービスである。
つまり、店舗銀行に対しては、基本はコストリーダーシップ戦略(同じサービスを低コストで提供する戦略-よく間違えられるが、低価格戦略のことではない)を基礎としながら、そこから商品やサービスの魅力を高める商品・サービスの差別化を行っていると見ることが出来るだろう。
また、ソニー銀行は当初、特徴のない銀行として見られていた銀行だが、旧来のメガバンクであっても、店舗をなくすことができないことを考えれば、有効な戦略であると言えるかもしれない。
一方、イーバンクやジャパンネットは、これとは全く異なり、純粋に決済のための銀行である。しかし、少し疑問に感じるのは、みずほ銀行や三井住友銀行といった店舗銀行がネットバンキングに力を入れ、決済手数料を下げた場合には、彼等は果たしてどこで差別化を図っていけるのだろうか?銀行は信用が基本的価値だが、店舗銀行と比べると信用の面では大幅に見劣りするのは否めない。また、イーバンクとジャパンネットの2行はほぼ同じ戦略に見えるが、差別化のポイントはどこなのか、今ひとつ見えてこない。今後、どのような戦略で店舗銀行やソニー銀行、はたまた同じポジション同士の競争を行っていくのかは見物である。

ところで、セブン銀行だが、本当にこれは優れた戦略であると言える。一番の特徴は、セブン銀行のお客は、銀行だということだ。セブンイレブンやイトーヨーカドーの店舗スペースを利用し、ATMサービスを他の銀行に売る、という新しいビジネスモデルを考え出したのである。
店舗銀行がバブル崩壊以降収益モデルが変化している流れから、コスト削減の必要性に迫られ、支店網を削減せざるを得ない現状で、ATM運営コストは彼等にとって大きな問題になっている。そこに目をつけて、ATMサービスのアウトソーサーとして独自の地位を確立したのがセブン銀行である。
これは、セブンアンドアイホールディングスの経営資源を有効に活用した形での多角化に成功した事例と言える。
収益を見事に上げられている背景には、ポジショニングのうまさだけでなくコスト削減努力もある。店舗がないことは当たり前としても、特徴的なのは、ATMの数が増えれば、メンテナンスサービスのコストを大幅に下げることができるという点だ。ATMの密集度が高くなることと、ATMのメンテナンスノウハウが蓄積されるからである。その他、システムも洗練されたシステムを利用し、大阪と横浜の二つで処理を行っている。
また、類似サービスと言えるファミリーマート等に設置されている「e-net」と比較すると、サービス開始当初から「アイワイバンク銀行」として銀行免許を取得したことによって、独自にATM設置が出来るという点である。(快走するコンビニATM、ヨーカ堂系が台数で大手銀抜き日本一を参照のこと。)

今回の業績の明暗から考えてみると、戦略の独自性が明暗を分けているように見える。最も特徴的な戦略を採っているのは明らかにセブン銀行である。もう少し調べてケースにまとめてみようと思う。

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