ゴーン改革の代償

日産はカルロス・ゴーンの一連の改革によって、劇的な復活を遂げた。ゴーンが行ったとされる改革はいくつかあるが、それらは、資産(株式等)売却による資本コストの圧縮と、系列関係の見直しによる仕入れコストの低減、クロスファンクショナルチームによる改革の推進等である。こうした様々な改革は、具体的な数値を必達目標(コミットメント)を示しながら推進された。特に、ゴーン改革の総仕上げとも言うべき中期経営計画「日産180」は、全世界で100万台の増産、営業利益率8%、有利子負債0が掲げられ達成された。
この一連の改革は内外で高い評価を受けているが、現在の日産の状況を見ると、その改革の揺り戻しとも言うべき現象が起きている。
1つは、販売不振で、これは特に日産180の「1」の達成(つまり100万台増産)のために、期限までに台数の稼げる小型車を多数リリースした結果、新車種の発売が続かなくなってしまったためと言われている。
もう1つの問題点は、財務的な改善を目指した結果、環境技術分野での立ち後れが目立っている点である。10月2日付日経新聞朝刊「ゴーン改革 成功の代償」によると、採算の見通しの立たないハイブリッド車の発売が見送られてしまい、その結果、エコカー開発に出遅れる結果になっているとのことである。
これらの結果、日産の長期的な成長戦略は不透明なものになりつつあるのかもしれない。そうした危惧を匂わせる現象として、日経産業新聞10月4日記事「日産強まる「軽」頼み」によると、日産自動車は自社ユーザーをつなぎ止めるために軽自動車が活用されているとしている一方で、それら軽自動車は三菱自動車など他社からのOEMであり、現在の販売不振に対して、他社から調達したリソースで対応をしている状況にある、という指摘がある。
ゴーン改革は、日産を倒産の危機から救う上で必要であったが、現在の状況を見ると、表面上の問題として、特に新車種の継続的なリリースなどの製品開発体制に問題が生じてきているように思える。心配なのは、これが一時的な改革の反動で収まらず、長期的な不振へと再び転落することである。
日本企業は特にその組織的な特性から、戦略転換が上手くできないという問題を抱えやすいと言われている。ゴーンはそうした問題に対して、外部から来た人間という立場を活用し、また、日産社内の危機感と上手く結びつけながら、組織の戦略転換を成し遂げた。しかし、ゴーンの関わりが弱まったあとの日産では、数値目標を具体的に掲げるわけでもなく、旧来のやり方は踏襲されなかったように見える。明確な目標を掲げ、それに向かって組織の諸活動を方向付けるというやり方故に可能になったゴーン以後の日産の体制で、目標の不明確さが生じれば、組織の合理性の基盤が揺るぎかねない。このままの状況では、かつての方向の定まらない日産に逆戻りする可能性もあるのではないかと心配される。

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