ブランド活用の難しさ(KDDIの「Business au!」の成功とカシオ「エクシリムプロ」の失敗の事例)

KDDIは、携帯電話ブランドの「au」は、若年層を中心とした顧客層を有しているため、企業向けのブランドとしては「au」を使ってこなかった。しかし、顧客にはそれがビジネスラインに対しては本気でないととられていて、今ひとつ企業向けサービスの伸びが悪かった。そのために、「Business au!」というブランドを立ち上げたところ、近年企業向けサービスが伸びているとのこと。
強いブランドの余勢を駆れ企業向け携帯も「au」で攻める (特別編集版 ブランド進化論):NBonline(日経ビジネス オンライン)

一方で、今週号(2006年8月7日-14日合併号)の日経ビジネスの特集「なぜ売れない-高まる新製品リスク-」という記事の中では、カシオのデジタルカメラ「EXILIM」が「エクシリムプロ」という一眼レフに負けない性能を持つカメラ製品群ブランドを作ったところ、まるで売れず、「EXILIM」を元の薄型カメラ中心の製品展開に戻した、という記事があった。
同記事によると、カシオは当初「EXILIM」の意味として「並はずれた」+「スリム」という二つの言葉を組み合わせたものとして売り出していた。しかし、カメラの高性能化を計った結果、初期製品(S1)よりも次期製品(Z3)は二倍近い厚みになったという。このときに「薄型でコンパクト、スタイリッシュ」にブランドの定義を変更していった。その上で登場したのが、「エクシリムプロ」で、性能は確かに優れているが、大型、いかにもメカというデザインの製品だった。

この対照的なニュースから、私たちは何を学べるだろうか?
1つは、ブランド価値の中身を顧客の視点から定義し続けることの重要性だと言える。一番怖いのは、日本の製造業にありがちな技術に引っ張られすぎて、顧客志向を失うことである。
ここからは推測に過ぎないが、カシオも勿論顧客調査をした上で商品開発はしているのだろう。しかし、調査結果を社内でどのようなものとして活用したのか、という点とは次元が異なる問題である。つまり、調査結果の解釈を過度に技術(スペック)寄りに解釈しては危険だということだ。
また、調査対象をどのような人々をターゲットにしたのか、例えば、エクシリムの薄型「技術」に惹かれた人にしたのか、それとも、スタイリッシュさに惹かれた人にしたのかという点も問題になるだろう。
2つめとしては、ブランドにはわかりやすさが重要だということだろう。
ブランドのイメージするものと、実際の製品・サービスが食い違っていると、「なんだかよくわからない」と顧客に認知されてしまうことになる。
組織論研究者のワイクは「センスメーキング」という言葉で、意味を作り出すこと、もっと簡単に言えば「腑に落ちる」ことの重要性を説いている。つまり、ブランドが伝えるメッセージと製品・サービスとが矛盾しないことは、極めて重要だと言える。
エクシリムの事例から見ると、当初ブランドのメッセージは、製品開発の過程であまりに拡大解釈されすぎたきらいがある。競合の模倣による追い上げも激しかったかも知れないが、もう少し「EXILIM」のブランドを信じて、じっくり育てても良かったのかも知れない。逆に、auの事例からは、ブランドが狭く解釈され過ぎて上手く活用がされていなかった。ここは難しいポイントだろうが、ブランドを狭く捉えすぎて活用しないのではなく、ブランドのメッセージを上手く活用できるような商品・サービス開発が必要だと言うことであろう。

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