エプソンのプリンター事業戦略

インクジェットプリンタの市場では、エプソンとキャノンがしのぎを削っているが、日経産業新聞の8月22日の記事によると、エプソンのプリンター事業は、ビジネス・店舗向けを強化するとのこと(日経産業新聞「エプソンのプリンター事業採算重視で高級シフト」)。

同記事によると、ビジネス向けプリンターの主な対象は二つで、高級写真分野と店舗用インクジェットプリンターである。前者はカメラマンを中心としており、後者はコンビニなどでクーポン等の販促品を印刷することを目指しているとのこと。また、店舗用は個人向けのプリンターよりも使用頻度が高く、消耗品のリターンが確実に見込めることがメリットであると述べている。一方、キャノンなどの競合他社が手がける製品とは異なり、より小規模な店舗や事業所を対象とした製品を展開することを狙っていることも述べられている。

少し前の記事になるが、BCNランキングによると、キャノンがプリンタ市場でエプソンの追い上げを見せている。現在のランキング等を見てみると、キャノンは個人向け市場では逆転をしたものと思われる。だが、これはもしかするとエプソンの巧みな戦略が背後で働いていたのかもしれない。
というのは、プリンタ市場には、2004年からデルも参入している。現時点ではまだあまり成功しているとは思えないが、本格的にデルが参入してくれば、旧来のビジネスモデルを覆すような低価格戦略をとってくることも考えられ、収益の悪化が予想される。特に、デルは旧来のプリンタ事業のメインであったサプライによる大きな収益に目をつけていると言われており、安いインクの提供などにより、プリンタ市場の収益性が低下する可能性は否定できない。なにしろ、デルは全世界で3日分の在庫しか持たない、超効率オペレーションの企業であり、彼らの低コスト戦略によって多くのPCメーカーが駆逐されていった。

プリンタ事業にデルが参入できるのは、個人向けプリンタ市場がより汎用品に近い市場であるためと考えられる。逆に言えば、仮に汎用品が市場で通用しなければ、デルのビジネスモデルは成り立たない。エプソンのカラリオシリーズで昨年ヒットしたのは、画像を自動的に補正してくれる機能を搭載したモデルだったが、こうした差別化された製品でない限り、基本的にユーザーの求める者は価格である。こういった差別化の余地が限られてくれば、低いオペレーションコストによる低価格戦略によって、ますますデルには有利になるだろう。また、徐々にユーザーも分かりつつあるのは、購入時の価格だけでなくインクなどのサプライの価格も重要であると言う点で、これも今後の市場の展開に影を落としているのかもしれない。

そう考えると、汎用品ではなくより顧客との関係の中で細かな改良、作り込みの必要な領域へとエプソンが事業の軸足をシフトさせたのだとしたら、これはなかなか賢明な戦略であろう。今後個人向けプリンタ市場のシェア推移に注目していきたい。

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